朝、玄関を出た目の前の廊下に紙切れが落ちていた。さすがに俺の部屋の目の前だし、衛生上の危険を感じさせるほど汚れてもないので、自室に戻って捨てようと(清掃員さん、いつもありがとうございます)拾い上げたら、それは鰻料理屋のレシートだった。
特上のうな重と上のうな重を1つずつ、合わせて8千円強。それが客の人数かはわからないが、「1人」という記載もある。1人で高級うな重を2つ食べて俺んちの玄関前にレシートを落としていったんか。
対する俺は、エントランスの宅配ボックスに収められている(配達員さん、いつもありがとうございます)麦飯用の格安麦を取りに行くために部屋から出てきたのだった。同じ集合住宅の中でこの格差。怨嗟のオーラが身体の芯から立ち上ってくるかというと……別にそんなことはないんだよな。俺、昔からうなぎってそんなに好きでも嫌いでもない。出されりゃ食べるけど自分で金出してまでわざわざ食べたいと思わない。
それよか麦飯だよ。むしろ麦飯が美味すぎて苦しい。最近は右を見ても左を見ても暗い話題ばかりで、もう仙人になって世間から離れたいという思いしか出てこないけど、仙人になるには穀物を断つのが基本中の基本なのだ。麦飯うめぇ〜って言ってる限り俺は仙人になれない。特上うなぎを食い散らすセレブになりたいとは思わないが、仙人になれないのは厳しいよな……。
いや待てよ、うなぎ食い散らしどころじゃ済まない中国歴代の皇帝たちだって、なろうにもなれなかった仙人である。うなぎ食い散らしセレブになれないぐらいじゃ、仙人の身分なぞ望むべくもないということを俺に教えるために、先輩仙人が不自然なうな重のレシートを俺の部屋の玄関前に置いていってくれたのかな?
だとしたら、俺の個人情報漏れまくってねぇか? 対面で言うと頭がおかしくなったと思われかねないから、俺はインターネットぐらいでしか「仙人になりたい」って言ったことないよ。こんなハチャメチャにインターネットに監視されてても仙人になって世俗から身を引くことなんてできるの? それができないなら賠償請求だ。毎日うな重を買っては公園のハトにくれてやれるぐらい賠償金を搾り取って、その金で崑崙山を造ってやる。OK, Google! お前の親元から賠償金を絞り上げる方法を教えてくれ!